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「ルク、知ってるの?」
「……いや、見間違いみたいだ…………」
自分でも下手な嘘だとは思ったが頭が上手く回らない。
まさか自分がかくまっている少年の暗殺依頼がウチにくるなんて……。
「それでバリュー、この研究所の場所は知ってる?」
「知ってますよ。なんなら…………」
二人が何か話しているようだが僕の耳には届かない。
今まで暗殺の依頼は虚人も含め両の手を使っても数え切れないほど請け負ってきたがその全ては名前も顔も知らない(少なくとも僕は)赤の他人だった。
それが今回は知り合い……短いが会話さえした相手だ。
この依頼は辞めよう……なんてアスカに言っても聞くわけないし。割に合わないと言って断る手もあるがアスカが乗り気であるということはそれなりに見合った報酬なのだろう。
ああどうしよう。今日まで浩也とはなんの関係もなく別々に生活していた。なのに今日、たったあれだけ言葉を交わしただけで……。嫌だ、浩也が死ぬのは嫌だ…………。
「それじゃ、今日はこれで」
「うん。また明日よろしくー」
焦点が目の前の二人に合った頃には、バリューは揃えておいた靴を履きなおし、玄関の外へ出ようとしていた。
「どうしたの、ルク。さっきからぼーっとして」
「……なんでもないよ。疲れてるだけ」
アスカにはたぶんばれているだろうが、とりあえず知らないふりをしておく。
人違いだと願いながら、携帯の画像と記憶の中の浩也を比べるが、無情にも見れば見るほど彼の顔を鮮明に思い出した。
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