狂気

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 玄関のドアを少し開け、外に誰もいない事を確認しながら、後ろから聞こえるアスカのやかましい寝息を耳に収め、自分で開けたドアの隙間から抜け出る。  結局、真夜中になっても僕の携帯はなんの着信もなかった。  それでも浩也を放っておきたくない僕は今一度、あの倉庫へ向かう事にした。  左手には今は消してある懐中電灯を、右手は銃を仕込んだポケットに入れて街灯もない夜道を歩く。  この街の住人は、一概には言えないが、ほとんどが虚人一一更正の見込みのない凶悪犯罪者だ。  昼間見た死体を思い出す。  ここの住人達は外部からの侵入者はもちろん、住人同士で殺し合うことも少なくない。それも全ては生きるためにだ。  なのでこの街で生きていくには何よりもまず、身を守る武器が必要だ。  幸い僕は、まだ住人に襲われたことも襲ったこともない。今回もこうして無事に暗いトンネルを抜けることができた。  夜の街にうごめくのは、酒を呑んで気が狂ったように歌いながらフラフラと練り歩く会社員達。ゲームセンターの入り口付近でタバコをふかしながら溜まる不健康そうな若者。道行く中年にベタベタと纏わり付く娼婦。  どこに行ったって人間というものは醜い……。溜息をつきそうになったが、酒臭い薄汚い空気を吸いたくなかったので意識的に止めた。
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