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裏路地の空気は昼夜を問わずかび臭いが、醜い人間達が溢れる表通りよりはだいぶマシに思えた。
そしてあの倉庫の、壊れたドアを開けようと手をかけたとき今までとは違った考えが浮かんだ。
電話をかけてこなかったのは、実はもう行く場所を決めていたんじゃないか。もうこの倉庫には浩也はいないんじゃないか。
いなければもう諦めればいい、浩也のことは忘れれば……。自分でも余計なことだと思いながらドアの隙間から音をたてないように体を滑りこませた。
倉庫の中は静まり返っていて、人の気配は感じられなかった。
「浩也。いないのか!?」
少し声を大きくして部屋の真ん中に向かい言葉を発したが、二、三度自分の声が返ってくるだけだった。
やはりもういないのか……。それでも念のため、自分の鼓動を抑え耳を極限まで澄ますと、どこからかカランと金属の棒か何かを床に落としたような鋭い音が聞こえてきた。
自然と緊張を増し持ってきたライトの明かりを燈し慎重に辺りを見回す。浩也以外の何かが潜んでいることも考え右手は銃のグリップを握りしめる。
ライトで足元を照らしながら、一歩ずつ辺りを確認しながら歩くと奥から僅かだが、短く呻くような声が聞こえた。
その方向にライトを向けると昼間見た、白い薄汚れたダボダボのズボンが明かりに照らされて浮かび上がった。
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