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柔らかく大地を温めていく日差し。薄桃色の小さな花びらを運ぶ穏やかな暖かい風。道の側にはたんぽぽが金色の絨毯を織り成している。
僕が住む、この吹き溜まりのような暗黒街にもこのような春がくるのだと思うと、なんだか姿の見えない大きな存在に癒しを与えてもらっているようだ。
向こうの山の、それよりもずっと向こうまで続いている青い空と、小さいながらもくっきりとした色で存在を誇示する綿雲。
アスカの為の買物に出かける途中だがこんなに清々しい風景を楽しめるなら悪くないなと思い、歩いている道に視線を戻そうと上に向けていた首を下ろすと、そよ風が運ぶ花びらの根源、枝をいっぱいに広げ空に向かう大きな桜の木が目に入った。
その、ほんの僅かな桜の香りを感じようと鼻から暖かな大気を吸い込むと、それまでの爽やかな気持ちは一気に消え去り、吐き気が襲った。
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