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「わ……わからない、俺は知らない…………」
どういうことだろう。この状況だとどう考えてもこの女を殺したのは浩也だ。
だが浩也の顔は嘘をついている顔じゃないし、僕にこんな嘘をついても意味がない。
「本当か?」
「本当だ……突然なんだか意識が遠くなって……今さっき気がついたらこうなってた……嘘じゃない」
意識が遠くなった……。それが本当ならその時にこの女を殺したんだろう。二重人格か。それとも……。
ふと、昼間聞いた本多博士の話を思い出した。博士は新薬の開発をしている。そして浩也は実験体。
「浩也、研究所にいた頃は何をされていた」
「……博士に、何かの薬を注射されてた、毎日……。博士はそれを…………」
急に浩也の言葉が途切れた。
浩也の顔を見ると目の焦点が合ってなく、どこか宙を見ている感じだ。
すぐにそれが暗黒街でもよく見かける薬物中毒者特有の目だと思い出し、彼の頬を強めに叩いた。
皮膚と皮膚がぶつかった乾いた音が響くと浩也は意識を取り戻したらしく、目はきちんと僕を見ていた。
「わ、悪い。……研究所でも、こうして意識がなくなることがあったんだ……」
彼の言うことが本当なら、やはりその薬が原因のようだ。使っていると意識を失い、その間自分の意思とは関係なく人を襲うようになる。ってとこか。
だがそんな効果のある薬、今まで聞いたこともない。新薬というぐらいだから未知の効能があるんだろうが。
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