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「もしかして、それが原因で虚人にされたのか?」
言ってしまってからすぐにそれは違うと気がついた。順番が違う。虚人だから実験体として薬を打たれたのだから。
「俺は本当は虚人なんかじゃない。この入れ墨だって金に困った両親に無理矢理いれられたんだ」
あらためて浩也の頬の入れ墨を観察した。
形や大きさは本物のそれと変わらないが、いつも見ているアスカの入れ墨とは微妙に違う。見比べて見ないとわからないような違いだが。それに他の虚人にはある額には入れ墨はなかった。
それにしても両親にこんな仕打ちを受けてその上、わけのわからない研究所に売り飛ばされるとは……言葉が出ない。
「だったらなおさらこんな所にいる理由はない。僕と一緒に暗黒街に行こう。アスカ……同居人には僕が説得するからさ」
僕がそう言っても、浩也は暗い表情で俯いたままだった。
「だめだ……俺と一緒にいたらルクもこうなるかもしれない」
首ごと視線を、床に倒れている女の死体に移動させた。執拗なまでに顔面を鉄パイプで殴られたその死体は、殺害者がどれだけ暴れ狂ったか、理性を失っていたかを物語っていた。
「大丈夫だよ。少しずつ治していけば……」
「とにかく今日は帰ってくれ。自分が怖くてたまらないんだ……」
薬のせいだとはいえこれ以上浩也に罪を重ねるわけにはいかない。それに僕だって急に意識を失って周りの誰かを傷つけると知ったら、誰も、特に仲間は近づけたくない。
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