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結局僕は浩也を連れて帰る事はできなかった。その中の理由には自分が死にたくない、というのが多少なりともはいっているだろう。
薬で苦しんでいる友よりも自分を守ろうとしている。つくづく自分が無力だと思わされた。
国中の悪い空気が溜まっているんじゃないかと思うほどの汚い空気が漂う暗黒街の夜道を歩きながら考える。
こんなんじゃ駄目だ。僕が考えなきゃ。浩也を救う方法を……。
どうすればいい、どうすればあの薬の呪縛から浩也を解放できるのか……。
薬の効果は一過性のものなのか。それを知ることができれば……。彼を救うのに必要なのは薬のデータか。手掛かりは浩也を実験体に使っていたという本多研究所。アスカが浩也を見つける前に薬のデータを入手できるか……。タイムリミットは思ったより短そうだ。
明日は早速、本多研究所の場所を調べなくては。
今日、書き写したメモに本多研究所の場所が書いてあったかもしれない。アジトのドアに手をかけたときふと思い出した。アスカが寝ている今のうちに確認しておこう。
「おかえりルク」
……寝ていたと思った女はリビングに、ドアを開けたらすぐ見える場所に待ち構えていた。
「こんな真夜中にどこ行ってたの」
当然の質問だ。だが暗殺の標的と会ってきたなんて言えない。
「……散歩」
とっさの嘘を考えつかない自分の脳みそを恨んだ。まあ上手い嘘が出てもこの女には通用しないが。
「言いたくないならいいけどさ」
そう言いアスカは踵を返し寝室へ向かった。それを見送ると今までの疲れが一気に襲ってきた。
僕ももう寝るか。調べるのは明日だ。
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