狂気

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 卵を焼く香ばしい匂いで目を覚ます。そして僕の隣のベッドを見るとアスカはいなかった。  昨日は遅くまで起きていたから寝坊してしまったかなと時計を見ても、まだ7時前だ。  アスカが早起きするときはたいてい良くないことが起きる。と思いながら、フライパンでベーコンを炒める音が聞こえるリビングへ向かった。 「おはようアスカ。早いじゃんか」 「だって今日は昼過ぎから仕事でしょ。早めに準備しておきたいじゃない」 「仕事……」  忘れてた。早く研究所の住所を調べなくては……。アスカに焦りを悟られないようにできるだけ自然に、かつ迅速にメモを捜す。 「今日の仕事、僕は行かないでいいかな」 「どうして?」 「えっと……買物に行きたいんだ。昨日牛乳を買うのを忘れてて」  今日も僕の口からは下手くそな嘘しか出てこなかった。でもそんなことを考えてる時間も惜しく眼球をぐりぐり回す勢いでテーブルを調べる一一あった、メモだ。 「だったら仕事先で買えばいいじゃない。研究所の近くにも商店街があるみたいだからさ」 「えっ研究所!?」  アスカの言葉に驚いた僕は手にとったメモを手放してしまい、宙に浮いてひらひら落ちるメモを慌てて取ろうとするがなかなか薄い紙は捕まってくれない。 「何驚いてるの。昨日ルクもメモに書いたじゃない」  ようやく逃げ回るメモを二本の指で摘み内容に目を通す。  ……明日、午後3時に本多研究所へ移動……。  書き写していたのにその内容をちっとも覚えてなかったなんて……不覚だ。 「ね。書いてあるでしょ」  記憶力の低下に落胆している僕を横目にアスカはスクランブルエッグを皿に乗せてテーブルに並べていた。  また作戦は考え直しか。そう思ったものの何も思いつかないまま、とりあえずいつもの椅子に座りアスカが作った朝食を食べはじめた。
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