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春の大気に、生暖かい強烈な腐敗臭が混ざっていたからだ。
思わず臭いの源があるであろう、桜の根本を見ると、すぐに見なければよかったと後悔した。
一一死体だ。それも複数の。
腐りかけた顔面から続く派手な色の髪の毛。どこからか暗黒街の噂を聞き付けて面白半分でやってきた若者だろう。
全員、鈍器で殴られたり、鋭い刃物で切り裂かれた形跡が残っている。この街の住人一一虚人(ノーバディ)達に殺されて身ぐるみ剥がされたのだろう。
ここは世界から隔離された街。僕はここから一生逃げられない。今までもできるだけ考えないようにしていたことが、どこからか頭に入ってきた。
いっそこいつらと一緒に殺されてその辺に捨てられた方が楽かもしれない。この先生きていたって……。
そこまで思い、考えを払拭させようと思いきり頭を左右に振った。
僕にはまだアスカがいる。今はそれだけでいいじゃないか。
先程の爽やかな気分まではいかないが、少しだけ気を取り戻し街へ続く道を再び歩き直した。
虫がたかる死体達を視界の外に追いやりながら……。
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