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街行く人達は特に気にもしないで通り過ぎていくが、もしも僕の両頬にアスカと同じ入れ墨があったらどうだろう。見知らぬ人に突然殴られたり唾でも吐きかけられるんだろうか。
それが人間の本性なのだろうか。異常な者は理由もなく……いや、異常というのが充分な理由なんだろう、集団でその異常を排除しようとするんだ。
すれ違う人々を見て溜息が出る。こんなことばっかり考えてるからアスカにネクラだと言われるんだ。
腕に提げているビニール袋には生ものも入っているんだと思い出し、少し足を早めた。
そこの路地を通った方が早く帰れる。
そう思ったのは自分に対しての言い訳で、本当は過ぎ行く人々の心の奥に潜んでいるかもしれない闇を考えたくないだけなのに。自然と足は人のいない路地へ向かう。
路地へ入りひとつめの曲がり角を曲がると、ちょうど同じタイミングで向こうから角を曲がろうとした少年と目があった。
その瞬間僕はなんとも形容しがたい違和感を覚えた。
少年は必要以上に驚いて……いや、脅えている。
サイズが明らかに合っていないダボダボの薄汚れたワイシャツに、同じく丈の長すぎるズボンから少しだけ見える足先は何も履いていない、その姿は一目見てどこからか逃げ出してきたのだとわかった。
おまけに彼の顔を見た瞬間の違和感……両頬の入れ墨一一虚人だ。
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