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「く……来るな」
少年は震えを帯びた低い声で僕に言ってきた。捕まってどこかに突き出されると思っているのだろう。
「一一こっちだ」
僕が言葉を発した頃にはもう彼の手を握って路地の奥へ走りだしていた。
いくら人が少ないとはいえ、日が落ちるにはまだ早い時間だ。こんな所では見つかってしまうだろう。
彼の手を引きながら全力で走る。次の角を右へ曲がり、次は左、左、右。この街の、特に裏道の地理はかなり詳しくなっていた事に自分でも少し驚いた。
ちらりと後ろを振り返ると、少年は混乱しながらも必死に足を合わせている。
既に使われていない倉庫。壊れたドアから少年を先に入れて僕も入る。
「ここなら滅多に人は入ってこないし、もし誰かが来ても隠れる場所はいっぱいある。夜になるまでここにいるといいよ」
ここに連れてきた理由を本当に端的に説明したが、しばらくたっても返事はこない。少年を見ると膝に手をつき相当乱れた息を整えている途中だった。
ようやく落ち着いた少年は首をこちらに向けて口を開いた。
「どうして……助けてくれた」
僕よりも低いがまだ子供っぽさの残る声だった。
どうして助けたか……か。僕にもよくわからない。ただ強く、彼を助けたいと思ったことは確かだ。
「なんだか……自分と似てたから。かな」
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