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虚人の少年……もとい、浩也をかくまった後、念のため人に見られないように路地から抜けて、暗黒街へ続くトンネルまで山道を歩いた。
さっき、浩也と目が合ってからずっと五年前の事を思い出していた。僕とアスカが初めて出会った日だ。
一一あの日、帰る場所も両親も同時に失った僕は、途方もなく街から街へとさまよっていた。不思議と涙は出ていなかったことを覚えている。
歩いて、歩いて、疲れ果て、どこかの街の路地に座りこんだときに、あいつはまるで、僕がそこにくるのをずっと前からわかっていたかのように声をかけてきた。
『君、帰る場所がないんでしょ』
不思議と僕は、返り血で紅く染まった服を着ていたアスカに不信感を抱くことはなかった。まだ僕よりも身長が高かった彼女の顔を見上げながら黙って頷いた。
『やっぱりね。着いてきて、いい場所があるの。今日からあたしと君はそこで暮らすの』
そう言ったアスカは、黙って僕に背を向けてゆっくり歩き出した。
そして僕は何も言わずに着いて行ったんだ一一。
断ることはできたはずだった。いや、血を全身に被った女に『着いてきて』なんて言われたら普通は断るに決まっている。
だけど僕は疑いもせずに、まるで台本に書いてあったかのようにあの時のアスカの背中を追いかけた。
気がつくともう、暗黒街にある僕達のアジトの前に立っていた。
あの日、ここに来たのが正解だったのかは今でもわからない。だけど別の自分を考えたって虚しいだけだ。
少し、浩也の顔を思い出して、ドアを開けた。
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