第三章

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妊娠6週目 産婦人科で見たあなたは、とっても小さくて消えそうな光であたしに見せてくれた。 あんなにあたたかい光はないよ。 親に何て言ったらいい? 弘人に何て言ったらいい? そんなのは頭になかった。 ただ、この子を生むと決めた。 決心をして、久々に弘人に会う。 あぁこんなに痩せてちゃんと食べてるの? なんか垢抜けてて、大人になったんじゃない? 短髪もいいね。 こんな話のあと、この子の写真を見せた。 まぶしそうに目を細めながら、この子を見た弘人はあたしを見る。 『あたし産むから』 何分かしたあと 『自分は父親になれない』そう言った。 責めはしない。この人は弱い人。自分自身が怖い人。 優しさや、情けなんてものは辛いだけ。孤独でいいんだもんね。 あたたかい場所からまた冷たい場所に戻ったときの寂しさを認めたくないの。 でも、もうあたしとこの子と家族だよ。 間違いない。 そんな孤独は無責任だよ。 あたしは弘人がもう、普通の人間ではないことは空気でわかってた。 もうそうゆう人間だって。 でも、やろうと思ってできないことなんてない。 人間にはかわりない。 父親になれないなんて言い訳で、この子がいる以上すでに父親なんだから、なる気があるかないかだ。 あたしはそんな弘人を受け入れる。この人はそれを怖がってるだけ。 あたしはあなたを絶対離さない。約束するから。 でも弘人は悩んでいた。 確かに悩まなきゃ困る。すんなり話が進むはずはない。
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