第三章

10/13
前へ
/47ページ
次へ
あたしはすぐに仕事やめた 店を仕切る立場にいたわけで、社長に言いずらかったけど、あたしはもう決めていた。 あんな空気の悪いところにいたら赤ちゃんがかわいそうでしょ? こう言うと社長も何も言えなかった。 弘人にはあたしからよく会いにいった。 産んでいいかダメなのかそんな話はしなかった。 あたしは産む。それは決まったことで、彼が父親になるかどうかの話。 追い詰めはしなかった。 無理に父親になってほしいわけじゃない。 自分で選ばせる。 何度か、手紙も書いた。独り言のような手紙。 最終的には、この子を殺すならあんたが殺せと言った。腹を蹴るなり、殴るなりすればいい。そのかわりお前も殺してやるって言った。 お腹にこの子がいるのにそんなこと言ってしまったのは申し訳なかった… だってそうでしょ? あたしも弘人もこの子だって同じ命なんだから。 そのくらい残酷なこと。 病院で中絶することと変わりはない。 親に話し、反対される。 まぁ、想定内のことだから、説得するしかない。 当たり前だ。曲がりなりにも大事な娘が未成年で子供を産もうとしている。 相手は会社員でもない。何の保証もない人間。 だけどあたしは曲がらなかった。 母親も曲がらなかった。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

200人が本棚に入れています
本棚に追加