第三章

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弘人の誕生日に、久しぶりに会った。なんだか毒が抜け落ちた感じがした。 なんでかわからないけど、今日なら伝わるって感じた。 何て言ったら伝わるの何て話せば…と、考えて黙り込んでいたら 『さわってもいい?』 彼は初めてまだペタンコのお腹を触って話しかけた。 『大きくなんだぞ』 愛おしそうに撫でながら、優しく強いいつもの目だった。久しぶりにこの目を見た。 涙が溢れた。 これは現実だよね? あの時のことは一生忘れない。忘れられない。 どんなにどんなに嬉しかったか。 何度も何度も諦めかけた想い。 もうちぎれそうだったあたしたちの絆。 言葉にならない気持ちが、溢れて止まらないよ。 あたしは間違っちゃいなかったんだ。 この子がまたあたしたちを近づけてくれた。 『約束したでしょ?絶対離さないって。どんなにあんたが逃げてもあたしたちはずっと一緒なんだよ。』 って言うあたしに 『おまえ、ばっかじゃねーの』 ってたくさん笑った。 あの頃と同じ笑顔で。同じ眼差しで、優しくあたしを見る。 『結婚しよう』って言った。 きっと、こんな風に人は絆を作っていくんだと思った。 こんな風に家族を作って、お母さんになって、おばさんになって、いつかおばあちゃんになるんだ。 今まで何人も好きな人がいた。 でも、信じることを、信じてもらえることを、諦めなかったのは初めて。 頑張ろうって思ったのも、守ってあげたいと思ったのも、信じてほしいと思ったのも、許し合えるのも、弘人だけだったから。 もうすぐ、お腹のこの子は三ヶ月。 赤ちゃん、次の検診にはパパと行こうね。 また動いてみせてね。 あたしを選んでここにきてくれて本当にありがとう。
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