それは小さな世界

1/5
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/345ページ

それは小さな世界

“白と緑の城”の上層にある“主の書室達”の更に上。城の最上階に近い一室。 “箱舟”エルアーク全体の管理を務める存在。つまり、ツヴァイが暮らしているのが、ここである。  その部屋は少しばかり奇妙な構造をしていた。  大きく取られた正方形の空間の下半分に、天井付きの三つの部屋と、屋根なしの一部屋。  屋根の無い部屋からは他の部屋の屋根上へと続く小さな梯子が渡されており、その先には、他三部屋の天井部分を床とした空間が、広く取られているらしい。  今居るのは、その内の下部にある屋根無しの小部屋だ。廊下へと繋がる扉が在り、言ってみればエントランスの役割を果たすこの部屋は、生活臭溢れる様々な品に満ちていた。  模様は独特だが、個性自体は控えめな薄手の敷物。壁や室内を飾る調度品はあまり統一性が無く、移り気な者か、協調性の無い複数の人間が己の感性だけで彩ったような何処かちぐはぐな雰囲気がある。  窓は上部、天井に近い位置に設けられており、張られた硝子に細工でも施されているのか、降り注ぐ陽光はまるで木漏れ日のような柔らかさを持っていた。  そんな部屋の、中央に置かれた年代物の丸テーブル。四脚置かれた椅子の一つに腰掛けたリュウガに、ツヴァイは振り返る。 「これが、御話ししていた指導用の単書。名を、“ディーファの自由帳”と言います」
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!