リリシズムの魔術師(クル→ドロ)

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   背後に気配を感じた。しかし、クルルはキーボードを叩く指は止めない。止める必要もなかった。頭脳戦を得意とする情報通信参謀は、この地球という安全な戦地の中、さらに輪を掛けて安全な場所にいた。  なにより、庭の片隅で臨戦態勢を維持する伍長、隊長とお菓子と格闘をこよなく愛する二等兵、家事に奔走しながらも個性派ぞろいの変則的な隊を率いる隊長、という実力派ぞろいの目を逃れて、秘密基地の最下層に位置するクルルズ・ラボへ到達できるものはまずいない。たとえ、優秀な兵士たちをかいくぐることができたとしても、傲慢な天才が設計したセキュリティシステムを突破できる者は、存在しない。  システムは、来訪者の情報を正確に伝えてくれている。  エンターを押して、回転イスをくるりと回し、身体を後ろに向けた。モニターからの青白い光を受けてできた、機械の影の中で逆さまに釣り下がっている暗殺兵の薄い青色の瞳を見つめる。小ウィンドウに映された来訪者の情報と、彼自身が持ち得る独特の雰囲気から、隊長にたびたび忘れ去られる影の薄い優柔不断な兵長だろうと、すでに見当はついていた。  
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