奈落の底への失墜

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旧アルジャーノ ファミリー本拠地 フィユール ファミリーとの戦闘で負傷した戦闘員達は全員ここへ担ぎ込まれ、治療を受けている。 アメリカ本部は壊滅し、フィユール制圧メンバーは撃退され……マフィア エクスターミネーターズは敗北した。 「どいて!ちょっ……急いでるの!どいて!」 右腕の骨折のために包帯を巻き付けているジョディが無我夢中で患者や医者の行き交う廊下を駆け抜ける。 とある病室の前で足を止めると、ドアを開け放ち入室した。 ベッドの上にはドロシー。そしてその隣に小さく座っている……リリィの姿。 リリィがアメリカ本部への襲撃に巻き込まれたものの明彦に救助され、無事帰還したとの知らせを聞いて飛んできた次第だ。 「良かった……本当に無事だったのね……」 傷1つないリリィを見るなり、ジョディは安堵の息を漏らした。 「外見は、デスがね。心の方は今どうなっているのか……想像に難くないデス」 ドロシーはリリィの頭をそっと撫で、言った。 リリィは……縋るように大きなクマのぬいぐるみを抱きしめたまま俯き、声を発しようとしない。 幼い心が死と隣り合わせの恐怖に蝕まれた。人が殺し、殺される瞬間を目の当たりにした。 「何としても止めるべきでシタ……。アメリカ本部なら心配ないだろうと……浅はかだった自分が憎いデス……!」 自責の念に駆り立てられるドロシー。 「アナタのせいじゃないわ。自分を責めないで……。……そういえば、明彦君は?」 リリィの護衛に当たった明彦はどうなったのだろうか。 「大した怪我もなく、腹部の裂傷が開いた様子もありまセン。心配でショウから、さっきお友達のところに行かせておきまシタ。……何度も謝ってまシタよ。『リリィをこんな目に合わせて申し訳ない……』、と」 「…………そう……」 悲しい結末だ。リリィはこの世界にいるべき人間じゃないと……分かっていた筈なのに……! 「……ツボさん……どこにいるの……?」 ぬいぐるみに顔をうずめながら声を出す、リリィ。 「リリィ……」 「だって……今日もお勉強しようって……ツボさん言ってたよ……?ツボさんいつ帰ってくるの……?」 ぬいぐるみが、濡れる。 「ねぇ…………ツボさん……!」 降り止まぬ……悲愴の雨に。
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