奈落の底への失墜

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だが華里奈からの反応はない。 反らした両目から零れる涙で頬を湿らせ……死んだような目で虚を見詰める。 「…………もういいです。あなたには失望しました」 腹の底から込み上げるどす黒い感情を飲み込み、手を離す明彦。 「そんなものだったんですね。あなたにとっての“仲間”というヤツは」 すると振り返り歩き出した。 ドアノブへ手をかけようとしたその時、同じタイミングで華里奈を診に来た舞が入室。 「あっ……舞さん!ミイネは!?」 明彦はすぐさま尋ねた。 脳裏に浮かぶ、疑問を。 「一命は取り留めたよ。意識はまだ戻らないし油断できない状況だけど……」 と、舞。 「……よかった。ありがとうございます」 友の命の恩人だ。有りったけの感謝を込めて深々と頭を下げる明彦。 すると明彦は廊下へと姿を消し、ドアを閉めた。 舞は華里奈の側へ歩み寄り、イスに座る。 「あれから何か体に異変はない?」 「……問題ない」 「うん。なら大丈夫だね」 すると舞は華里奈の顔を真っすぐに見据え、こう言った。 「もう……そんな暗い顔するのやめよう?」 暗い顔……。 「…………」 黙りこくる、華里奈。 「びっくりしちゃった。知らない間に守と凄くいい雰囲気になってて。なんだーうちの弟も案外やるじゃん!みたいな?」 明るく陽気に話す舞。 その裏に隠された辛さは容易に読み取れた。 「……強いな。さすがは守の姉だ。守によく似てる」 「え?」 守に……? 「仲間のために、いつも自分が辛い思いをする道を選択する。今だって傷ついてるのは同じ筈なのに……私のために……」 到底真似できない。 弱いから……とてもできない……。 「強くなんてないよ。私は守がまたいつものように帰って来るのを待ってるだけだから」 ……え……? 「もしものことを考えると誰だって辛くなるのは当たり前だよ。実を言うと私もさっき泣いちゃったし……。でも守はまた帰って来る。いつもの任務みたいに生きて帰って来て、私はそれを見て安心する。そんな光景を思い描いてるだけだよ」
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