一章~薄月夜の邪念~

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 綺麗な夕焼けだ。  空一面が紅く染まったその光景は、美しささえ感じさせる。  もっとも今のロイスには、そう思う余裕すら無かったが。 「はあっ!」  一人の男に向かって、ロイスが木刀を振り下ろした。  ロイス・グラント。マグレブの街に住む、十八歳の青年である。  明るいオレンジ色の瞳は、活発な印象を与える。  対しているのは彼の父親である、ネフィ・グラント。  ロイスの攻撃には一歩も引かず、逆に弾き返した。そのまま刀をロイスに向け、その場にじっと構えている。  先程からこの光景が、何度か繰り返されていた。  しかし何回やっても、刀が当たるどころか、ネフィは始まってから全く動いていなかった。  間も無く、夕日の半分近くが沈もうとしている。
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