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「お父さん……」
黒髪の少年が赤い絨毯の敷かれた部屋で小さく呟いた。少年は小柄で、細いメガネをかけている。年は16程だろうか。
「利弥、大丈夫だって。もう子供じゃないんでしょ?」
全面ガラス張りの壁際の近くにいた少年の父親が言った。金色の髪の毛が長く、優しげな笑みを携えている。
「だけど……1人で日本行けなんて言われても……」
少年――慶安利弥――が俯き加減に言った。
「大丈夫だよ。住む場所は日本支社のビル。通う学校には父さんの後輩が教師としているし、何たって知らない土地じゃないでしょ?」
「お父さんの後輩?」
「そう。太朗先生。太朗の朗は朗らかだよ」
言って父親――慶安潤――は微笑んだ。
「でも……」
「トシ、心配なのは分かるけど逃げてちゃダメだよ。分かるね?」
潤の問いかけに利弥は頷いた。
「じゃあ、ジェット機の用意させておくから明日までに荷物をまとめておきな。いいね?」
「……はい、お父さん」
言って利弥はふぅっ、とため息をついてだだっ広いその部屋を出た。
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