事件

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「今日は冷えますね」  前の方から声がする。 がたがたと馬車の走る音に、ザーザーと叩きつけるように降る豪雨。 「えぇ……本当に寒い」  僕は適当に相づちをうつ。 「王、体だけにはお気をつけて下さいます様……お願い致します」 「分かっている」 僕からしてみれば、そんな会話よりも、運転に集中してもらいたかった。 だから、そっけなく返事をしていたというのに。 「王が倒れてしまわれましたら……国民が困りますので」 しつこく何度も何度も言ってくる。 「なんでしたら、そんな花など私どもに申し付けて下されば、買いに行きましたのに」 「それじゃ意味がないんだよ」  僕はだんだん腹が立ってきた。大切な君の好きな花。それを『そんな花』と呼ぶ。 「そういう事は城で聞く。だから急げ」  僕は冷たく言い放った。すると、大きくため息をついて、馬車のスピードを上げた。
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