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ガラス越しに拳程の黒い塊がそのまま落下するのが見えた。
でも暗いせいで、何なのかはっきりわからない。
大きな音のわりにはガラスが割れたりヒビなどが入っていないところを見ると、それほど硬い物ではなさそうだ。
おそらく飛び回っていたコウモリだろう。
窓の外はベランダになっている。
黒い塊はそこに落ちているに違いない。
私はそう思うと、寝てばっかりで全然使っていない足を引きずるようにしてベッドから降りた。
足の裏からはひんやりと冷たい床の感触が伝わる。
ヒタヒタと素足のまま近付き、ベランダに続くガラス戸に手をかけた。
開かれたガラス戸から、顔だけを出して覗き込んだ、次の瞬間……目にした状況に私は驚愕した。
全く予知していなかった事態に、声も出ない。
驚きで渇いた喉からは空気が漏れただけだった。
……そこには、何処からやってきたのか一人の男が落ちていたのだ。
狭いベランダに、長い手足を曲げ背を丸めて、体を小さくさせそこに倒れていた。
それに男の身なりは真っ黒で、まるで喪服でも着ているかのようだ。
病院にこのような服装でいるなんて……なんて縁起が悪いんだろう。
というかガラスにぶつかった黒い塊は、この男だとでもいうのか。
……ありえない。ベランダに他に何か落ちていないか確認したけれど、その男以外の物は何もなかった。
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