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もしコウモリが怪我をして落ちていたのならば、介抱してあげようと思っていたのに……まさか男がいようとは。
それにしてもこの男……怪し過ぎる。
何処から、この男は入って来たのだろう。
隣のベランダから移ってきたのだろうか。
突然現れたこの男……なにしろ気味が悪く、恐ろしい。
私は自分からその男に近付いたり、声をかける勇気などは持ち合わせていなかった。
とりあえず看護士を呼ぼうと考え、男が起きぬよう足音を忍ばせ、ベッドまで来ると、傍らにあるナースコールに手を延ばした。
そしてボタンを押そうとしたその時……不意に後ろから声がした。
「……こんばんは」
私は突如放たれたその声にビクンッと体が異常なまでに反応し、心臓が早鐘を打ち、ボタンを押そうとした指先が止まる。
倒れていた筈の男が、いつの間にか起き上がり、歩き出す音までもが後ろでに聞こえた。
静かすぎる病室では衣擦れまでもがよく耳に届き、その行動が手にとるようにわかる。
段々と近づいてくるその足音に、私は恐怖した。
革靴でも履いているのか、重苦しい靴底が床を蹴る音が更にその心理を煽る。
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