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右手を掲げたまま後ろ向きに進むという奇行を披露する羽目になったが、背に腹は代えられない。
ロビー中の注目を浴びながらも受付付近までやってくると、タイミング良く名前が呼ばれる。
受付から目を逸らしたまま左手で財布を取り出して、支払いを済ませる。
近くにいた老獪な爺さんが、兄ちゃん頭大丈夫か? と半笑いで心配してくるのを苦笑いで返答して出口へ向かう。
自動ドアが開いた気配に合わせて後ろに飛び、2つ目の自動ドアを潜り抜けて薬品臭い病院から脱出する。
「はぁー……」
空調の効いていた病院から抜け出すと、生暖かい風と照り付ける日差しが頼んでもないのに迎え出てくれた。
今回ばかりは蒸し暑く手厚い歓迎が気持ち良く感じる。
大きく溜息をついて顔を上げると、そいつは閉じた自動ドアの前に立ったまま動かない。
思った通りそいつは病院から出れないようだ。
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