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マスターに助けを求め、やってくるまで右手を掲げたままでいる羽目にならなくて助かった。
もうこの病院には来れないだろうけど。
心療内科に連行され兼ねない。
「君にもあれが見えるんだね」
「うわっ」
安全圏に入り、警戒心を解いてゆっくりとそいつを観察していると、耳元で声がした。
不意を突かれて大袈裟に驚いた俺は、跳び上がって声の主を見た。
「ごめんごめん、急に話しかけて、びっくりしたよね」
本心から申し訳なさそうに謝るのは、患者衣を着た男だった。
身長は低いが、薄い顔は大人びていて感じる。
俺と同い年か少し上くらいだろうか。
夏に似合わない白い肌が、病人らしさを際立たせていた。
散髪していないのか伸びっ放しの髪を前と後ろをヘアゴムで束ねていて、唇が紫色だったのが印象深い男だ。
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