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転がっていく言葉を追い掛けるようにして、俺は自然と視線を背けてしまった。
転院か。
入院患者が転院する理由はそう多くないだろう。
ちょうどその頃、胃癌を発症した俺の祖父が少し離れた病院に移されたばかりだった。
自宅近くの病院に転院するなんて喜ばしい理由を除けば、彼も似た境遇だと窺える。
「試してみよう」
「え?」
呼吸がしづらくなる話を無視して立ち上がると、頭上にハテナマークが似合いそうな呆けた顔をして彼は俺を見上げる。
「あいつを外に連れ出せるか、試してみよう」
「ど、どうやって?」
「俺も傷物ですから条件には合います、あいつを病院から引っ張り出してやるんですよ」
彼も立ち上がって、低めの背で隣に並ぶ。
「大丈夫なの?」
「さあ? 正直言ってかなり怖いです」
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