37149人が本棚に入れています
本棚に追加
本来なら、今頃俺は帰りのバスの中で、小説でも読んでいた頃だろう。
今日出くわした現象は、心の底にそっと閉まって、二度と開かないように厳重に鍵をかけて、帰宅してテスト勉強に勤しむ。
マスターに話すなんて以ての外だ。
即座に憑りつかれてきてくれとお願いされてしまう。
それは絶対に嫌だ。
怖過ぎる。
でも、どういうわけか彼と話している内に、恐怖心が和らいできた。
近くに味方が出来たと思えたからだろうか?
それに、理由はもう一つある。
「助けたいんでしょ?」
もう一度だけ同じ質問を訊ねる。
べたつく南風に縛った髪を泳がせて、彼は小さな顎を引いた。
「……うん……出来れば、ね、一回だけ勇気を出して連れ出そうとしたんだけど、あいつは僕には興味無いみたいでさ」
「傷口が無いから?」
「多分、そう」
最初のコメントを投稿しよう!