退院希望者

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本来なら、今頃俺は帰りのバスの中で、小説でも読んでいた頃だろう。 今日出くわした現象は、心の底にそっと閉まって、二度と開かないように厳重に鍵をかけて、帰宅してテスト勉強に勤しむ。 マスターに話すなんて以ての外だ。 即座に憑りつかれてきてくれとお願いされてしまう。 それは絶対に嫌だ。 怖過ぎる。 でも、どういうわけか彼と話している内に、恐怖心が和らいできた。 近くに味方が出来たと思えたからだろうか? それに、理由はもう一つある。 「助けたいんでしょ?」 もう一度だけ同じ質問を訊ねる。 べたつく南風に縛った髪を泳がせて、彼は小さな顎を引いた。 「……うん……出来れば、ね、一回だけ勇気を出して連れ出そうとしたんだけど、あいつは僕には興味無いみたいでさ」 「傷口が無いから?」 「多分、そう」
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