退院希望者

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その苦渋に染まった表情が、質問をぶつけられてまた変化する。 思い悩むように視線が宙を彷徨い、最終的に帰ってきた瞳にも答えと思しきものは映っていなかった。 「理由なんかないよ、ただ助けたいって思っただけ、変かな?」 照れ臭いのか頬を掻きながら、彼は首を小さく傾げた。 「いや、いいんじゃない? そういう答えの方が俺は好きだよ」 マスターなら、面白そうだから、なんて悪びれなく即答するんだろうな。 覚悟を固めて一歩前に踏み出す。 センサーが反応して自動ドアが開き、肌の熱を奪う冷風が吹き込む。 人の形をした枯れ木とも形容出来るそいつは、こちらを見上げたまま動こうとしない。 直視出来ずに顔を上げると、不審者が戻ってきたとでも考えていそうなナースと患者達の憐憫の視線が突き刺さった。 色んな意味でもう2度とこの病院には来れないな。 というか来たくない。
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