37150人が本棚に入れています
本棚に追加
その苦渋に染まった表情が、質問をぶつけられてまた変化する。
思い悩むように視線が宙を彷徨い、最終的に帰ってきた瞳にも答えと思しきものは映っていなかった。
「理由なんかないよ、ただ助けたいって思っただけ、変かな?」
照れ臭いのか頬を掻きながら、彼は首を小さく傾げた。
「いや、いいんじゃない? そういう答えの方が俺は好きだよ」
マスターなら、面白そうだから、なんて悪びれなく即答するんだろうな。
覚悟を固めて一歩前に踏み出す。
センサーが反応して自動ドアが開き、肌の熱を奪う冷風が吹き込む。
人の形をした枯れ木とも形容出来るそいつは、こちらを見上げたまま動こうとしない。
直視出来ずに顔を上げると、不審者が戻ってきたとでも考えていそうなナースと患者達の憐憫の視線が突き刺さった。
色んな意味でもう2度とこの病院には来れないな。
というか来たくない。
最初のコメントを投稿しよう!