顧客番号001 三木義美

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そんな印刷会社に一人の女性がやって来た。工場という建物には似つかわしくない、清楚な服装に身を固めた彼女の名は、三木義美。歳を重ねているというわけではないが、学生というわけでも無い、非常に判断の難しい年頃に見える。髪はセミロングで、服は白のブラウスにロングスカートという、いかにも文化系というイメージだ。外見だけで見ると同人活動歴は長そうだ。  義美は入り口の前で立ち止まると、携帯電話を取り出して友人と思われる相手に電話をかけた。 「もしもし、私だけど…素芸印刷で合ってるよね?うん、見つけた…今から中に入る。うん…わかったわ。後で連絡入れる」  恐らくこれから利用する場所が間違っていないか確認したのだろう。彼女の声は不安混じりの、ゆっくりした弱い口調だった。確かに駅から離れた住宅街に建っていては見つけにくい。さしずめ、ここの印刷会社を電話の相手に紹介してもらったに違いない。
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