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私は直ぐさま家に帰り、それを実行した。
普段私はそういう事なんて信じないのに、この時ばかりはすがる気持ちだったのだ。
鏡を向かい合わせて置き、その間を三回往復した。
そして鏡を見ると……居てくれた。
私の後ろに、さっちゃんは居てくれた。
昔っからの人なつっこい笑顔をして、私を肩ごしに見つめてくれている。
「さっ……ちゃん」
思わず涙が零れた。
この涙は今まで流した涙とは別の種類の涙。
さっちゃんは首を傾げる。
『何?』って言ってるみたいに。
「さっちゃん!私……今まで言わなかったけど!今まで言えなかったけど!私はさっちゃんの事が……!」
あまりの嬉しさに私は振り向いていた。
さっちゃんはさっきの笑顔とは違い、悲しそうな顔をしていた。
振り向いてしまった。
私の思考は一瞬止まった。振り向くな、と言われていたのに。
さっちゃんは俯く。顔がよく見えない。
「さっ……ちゃん?」
声を振り絞り、さっちゃんに話しかける。
そしてさっちゃんはゆっくりと顔をあげた。
『何で振り向いた!?』
その声は奮え上がるような怒号。そして……
突然、私の後ろの鏡から幾つもの腕が伸び、私の腕を、髪を、足を、全身を掴み、引っ張る。
力強過ぎて抵抗も出来ない。逃げれない。
「さっちゃん!助けて!」
さっちゃんに助けてを求め、顔を見た時にゾッとした。
さっちゃんは恍惚に笑っていたのだ。
いや、こいつはさっちゃんじゃない。別の生き物だ。
私の身体は鏡へと引きずり込まれていく。
もう顔だけしか出ていない。
「さっ……ちゃん……」
そして私は引きずり込まれ……
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