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行方不明者五名。
そう書かれた紙片に私は公園のベンチに腰を下ろし見ている。いや、正確には視界に入れている、というが正しいだろう。
私の名前は佐藤神奈(さとうかな)、職業は刑事。
よくドラマなどで見かける女刑事、というアレだ。と、いっても刑事になって右も左も分からないのだけど。
さて、今私は行方不明者を捜索するように上部から命令が下されている。
見つかりっこない。
普通、こんな時は文句の一つや二つ言ってやりたかったのだが、先輩の一人が協力してくれるというのでその文句も声として出る事はなかったけど。
「神奈、待たせたな」
そう声をかけられ、私は顔をあげた。
そこにはスーツを着こなした先輩がタバコをくわえて立っていた。
「先輩、歩きタバコは駄目ですよ、一応刑事なんですから」
「少しくらい良いじゃないか。固い事言うな」
この先輩は佐倉健(さくらけん)、刑事になってもう十年以上もなるベテラン。
私にとっては頼れる先輩でもあり、だらしない先輩でもある。
「神奈、その紙には目を通したか?」
先輩は紫煙を吐き出しながら携帯灰皿を取り出した。
こういうところはしっかりしている。
「はい、通しました。これって……」
「これって……って、何か言いたいことでもあるのか?」
「そりゃあありますよ。だってこの行方不明者って全員子供じゃないですか。この件は誘拐か何かじゃないですか?」
私の訴えを軽く流すように煙草を揉み消す。
「それを調べるのが俺達の仕事だろ?」
「それはそうですけど……」
どうもふに落ちない。
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