乱文たちの巣窟

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この時代には至って当たり前のように死が転がっている。戦国の世にまだ終わりは見えそうにない。あるのは死体の山だけだ。赤く染まる夕陽に交わった腐ったような臭いのする動かない、山。やられてやりかえす、やられたからやりかえす。死が交差する。規模の大きい小さい戦が繰り返されて、つもるつもる屍が。ああ、今日も明日もその先の涯でもきっとあれが死んでも、回り続けるであろう輪廻に。 何かが轟く。冷たく重い何かが。 女は忍であったが勇猛に敵に向かう。もともとああいう気質なのだろう、隠密行動などは苦手だったようだから。では何故忍か。そしていまだに忍をしているのか。自分が嫌だった。あの女を戦場に出すのが。上の命令もありせめてと忍にさせた。表の薄汚れた戦には出なくてすむはずだった。 だが女は自分の心情を裏切り掻き乱す。 女が殺すのを見た。 あの女には酷くふつりあいだ。 うでを落とした あしを落とした くびを落とした 気味が悪いほどに似合わない、嫌悪さえおきるほどに。死を連想させる全てが存在していないと思わせられているのは自分だけなのだろうか。その夜は眠れなかった。 思えばあまりに無意味なことだらけで。おとなしく囲っていればよかったのだ。 それが、今では。 どちらが閉じ囲まれているのか。 あの女は 戦が似合わない 殺しが似合わない 死が、屍が、似合わない 結局は籠のなかの鳥は自分。 そうでありたいそうなりたい。 そうであれば、と。 叶わぬ虚の夢に捕われそうして現実にうちひしがれるのだ。悲しみさえも覆いつくし負を増殖させる 死ぬかもしれない 死んでほしくない 死なせたくない 女にまとわりつく死の影。いつその順が訪れるのか。その時自分はどうなってしまうのか。惑いは。 己が、手、で。
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