乱文たちの巣窟

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あの子から煙草のにおいがした。ひそかに、けれど確かに漂い香り続けるそれは、認めたくない事実を只々俺に突きつけて心を揺らしていくのだ。大きくゆっくりと、まるで何かを壊してしまうかのように。あの子は煙草を吸わない。あいつは煙草を吸っている、それだけで。 あの子は傍にいる、けれど遠くに感じてしまう。俺があの子へ求めているこれはあの子があいつに求めているのと同じ。だから遠くに感じてしまう。だとしたら、どうしようもなくなるのだ。あの子が向かう先はあいつで、あいつが向かう先はあの子で。俺が向かう先は。 なら奪えばいいのかあいつから無理矢理にでも壊してでもあの子にさようならを告げさせて。ああでもそんなことをしてしまったらえたいの知れないのに侵蝕されそうで怖いんだ心が体があの子さえ共に。しかし実際はあの子のことなんか。 人生は例外無く総じてエゴの塊でしかないのである。 だから俺は例え築かれた世界が崩れることを知っていたとしてもただその様を傍観しているだけなのだろう。変わらずに流れ行く時間の中で、あの子の世界だけが変わってしまうのを。 予想ではない予感でもない それは俺の人生での事実であり それが俺の人生でのエゴである 欲しいあの子を手に入れたその時に、あの子にさようならを。 あの子の心に、 さようなら
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