445人が本棚に入れています
本棚に追加
/948ページ
「あの笑顔、今でも忘れられないんだ」
照れた様な悲しそうなそんな表情の男性、エルメスの父親であり、楽団の指揮者のマリーニは湯気の昇るカップを見つめながら話します。
出された食事を丁寧にそして少し遠慮しながら頬張る女性は、真剣にその話に聞き入りました。
「昔から私の演奏を、誰が強制した訳でもないのにいつまでも聞いていてね」
大きな目が揺れたのを確かに見た女性は、最後のお茶をいただきながら少し視線を外しつつも、変わらず真剣に話に聞き入りました。
「父を越えるトロンボーン奏者になるんだ、なんて言ってたんだ。もしかすると私はその言葉に固執し過ぎていたのかもしれない」
おかわりを勧めるマリーニに、女性はお礼を言っていただき、優しい笑みを向けました。
最初のコメントを投稿しよう!