少年行路

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 濃紺の光に襲われまして、少年は夜の空気を吸い込みました。 「僕、走ったんだ。細い路地を白黒の猫と一緒に」  少年は、いくつもの夜に暮らしまして、いくつもの乾いた空気を吸い込みました。  たくさんの冷たい空気を吸い込みました。  たくさんの汚れた空気を吸い込みました。  そうして、いくつもの色が通り過ぎまして、赤、青、黄色、紫、そしてオレンジ、いろんな渦が光彩にまたたきました。  きらきら、きらきらとまたたきました。  少年は道端で街路樹を見上げました。 「君は背が高いね。僕なんかとくらべたなら、僕よりもずいぶんと高い。でもヒョロヒョロだな」  厚手の黄色い袖がこすれて擦り切れました。少年は落ち着きないまなこに光を吸い込みました。  たくさん。  そして、いっぱい。  右肘の傷口に舌をあてて考えました。想いました。 「あの子はどこにいるんだろう」  考えました。想いました。 「あの子はどこへいっただろう」  待ち合わせてるわけではありませんが待ちきれなくなりまして、少年はあの子のことを。  アイシテマスカ?  アイシテマスカ?  アイサレテマスカ?  アイシテマスカ?  少年は頬をほんのり赤らめまして、そんなに気高くも高尚でもない存在から、しずくの一粒ひろいまして、ぼんやり紺色お空に投げてみせました。  ほほいほほい投げました。  それは、はかなさでありまして、うつろいでもありました。  ぴょこりぴょんぴょん跳びました。  ふわりふわふわ飛びました。  たくさんの夜に飛びました。  ながくながい光の波に飛びました。 「あの子はどこにいるんだろう」  柔らかい想いが風に流れました。 「あの子はどこへいっただろう」  見上げれば夜空に月星が溶けてありました。  見下ろせば雲のあいまに街明かりがまたたきありました。  結局あの子はみつからず、少年は空の裂け目にそっともぐり込みまして、哀しい顔してそっと笑っているのです。あの子を待ちながら。
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