53人が本棚に入れています
本棚に追加
そう、それで永澤の言うこの前というのは…
それは3日前出来事だった。
その日はどしゃ降りとも言える雨で、俺は会社から帰宅した早々濡れた体を温めるためにシャワーを浴びて、独り寂しく缶ビールを飲んでいた。
テレビすらついていない部屋は、アナログな時計の秒針がカチッカチッと響くだけで、ビールが喉元を通り過ぎる音がヤケに目立った。
そんな静けさの中『ピンポーン』と来客を知らせるベルが鳴った。
家に客が訪ねてくることはほとんどないし、しかも時計は夜の22時過ぎを指していた。
面倒臭いと思いながら、持っていた缶ビールを置くと仕方なく玄関の方へと向かった。
ドアスコープも覗かず扉を開けた俺は、そこにいたヤツを見て驚いた。
「永澤…どうしたの?ってゆうか、俺の家よくわかったね」
「すみません、河野さんに聞きました」
河野ってゆうのは、総務課にいる俺の同期だ。
永澤は苦笑いをして、バツが悪そうに言った。
雨に濡れているせいで永澤の髪からは雫がポタポタと落ちて、ボタンのしていないジャケットの間から、肌に張り付いたブラウスが見えていた。
「まぁ、いいや入れば」
俺は普段から他人を家に招くことはなかった。
それなのに、こんな時間に突然何の前ぶれもなく、雨に濡れた……女。
見るからにこのベタな状況……ワケありなのがよくわかる。
正直、永澤このまま帰そうかとも思った。
だって……変なゴタゴタや面倒に巻き込まれるのはゴメンだろ。
……でも、こんな状態でわざわざ訪ねてきた永澤をここで無下に帰すことはいくら俺にもできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!