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尚美は、レイプの子だった。
当時、金銭的に余裕のなかった尚美の母親は、腹を殴ってみたり、わざと階段から落ちてみたり、流産するためにあらゆる努力をしたという。
しかし、子どもは産まれてしまった。
「あんたなんか、産むんじゃなかった」
というのが、母親の口癖だった。
気に入らなければ、殴られた。髪を引っ張られ、尚美は引きずられた。熱湯をかけられた痕は、今でも足に残っている。腕を骨折したのは2回。
ありとあらゆる虐待を受けてきた。しかし、尚美が子どもの頃、――30年近くも前だ――には、今ほど虐待に対する認識は広がっておらず、頼る当ては母親だけだった。
「あんたは、雑種の犬みたいなもんさ」
酒に酔うと、母親は口走る。
「あたしの血を引いてると分かってるだけ、感謝するんだね」
尚美が、食べたい、と思っても、母親は酒のつまみを分けてはくれない。
明日の参観日のことさえ、切り出せなかった。
「病院で隣になった人が、赤ん坊に尚美、と付けたのさ。あんたの名前の由来はそんだけ。――さっさと寝な!明日も学校だろ!」
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