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「…誰に話したらいいのか、分からなかったんだ。カミさんの主治医は、僕は良く知らないし…。思い付いたのが、君だった。―…済まない」
「主治医…。尚ちゃ…、いえ、奥様、御病気だったの?」
「…そうだね、…病気だ。病気だった」
淳のもの言いが、早紀には引っ掛かった。
手を組み合わせて、落ち着きなく指を揉んでいる淳の、次の言葉を早紀は待った。
「見て…」
「え?」
「見てほしい物があるんだ」
淳が取り出したのは、水色の帯付き日記帳だった。
鍵付きになっているが、帯が切られている。
「…これ、切ったのはあなた?」
「うん。…―迷ったんだけどね、カミさんのだ。鍵が見つからなくて…思い切って開けてみたんだ」
「私に、読んでほしいという事?」
「君は…」
言いかけて、淳は少し微笑んだ。
「レントゲンに、心は写らない」
「何?」
「口癖だったね、君の。それで臨床心理の道を目指した。…僕は小児科医を」
短い沈黙があった。
「懐かしい話だけれど、…本題に入ってもらえると助かるわ」
「ああ、ゴメン。君はその道のプロだから、意見を聞かせてほしい」
「…分かったわ。読んでみましょう」
コーヒーを飲み、早紀はページを繰った。
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