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「ったく、こいつは本当に――大した奴だ」
ミットから伝わってきた衝撃に、大庭は表情を僅かに歪めながらも口元で笑う。
これまでの湊のジャイロボールに慣れきっていたせいで忘れていた。
この――
「本物のジャイロボールを受けるのは、な」
瞳を閉じれば今も思い出す。
あの日々を。
同い年の女の子の投じる速球。
球速は決して速いものではなかった――性別を考えれば脅威だったが――その球を、数え切れない数だけミットではなくその身で受けた。
ノビてくる球は顔面で。
沈む球は股間で。
その経験があって今の自分がいる。
「湊、ナイスボールだ!! その球でドンドン来い!!」
笑みを浮かべ、白球を湊へ返す。
「はい、宜しくお願いします――先輩!!」
そこで行われているのは二人のキャッチボール。
昔から繰り返した――あの速球を再現するための投球練習。
シーズン中に行ったフォークの練習の合間に繰り返した鍛練。
こいつら、笑っている?
それは湊が先ほど投げた未知の速球よりも驚きだった。
この世界最高峰のベースボールゲームの決勝戦。その勝敗がかかった場面で、笑っているだと。
楽しんでいる。
この状況を、楽しめている。
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