第百十四章『勝利を目指す者達』

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「ったく、こいつは本当に――大した奴だ」 ミットから伝わってきた衝撃に、大庭は表情を僅かに歪めながらも口元で笑う。 これまでの湊のジャイロボールに慣れきっていたせいで忘れていた。 この―― 「本物のジャイロボールを受けるのは、な」 瞳を閉じれば今も思い出す。 あの日々を。 同い年の女の子の投じる速球。 球速は決して速いものではなかった――性別を考えれば脅威だったが――その球を、数え切れない数だけミットではなくその身で受けた。 ノビてくる球は顔面で。 沈む球は股間で。 その経験があって今の自分がいる。 「湊、ナイスボールだ!! その球でドンドン来い!!」 笑みを浮かべ、白球を湊へ返す。 「はい、宜しくお願いします――先輩!!」 そこで行われているのは二人のキャッチボール。 昔から繰り返した――あの速球を再現するための投球練習。 シーズン中に行ったフォークの練習の合間に繰り返した鍛練。 こいつら、笑っている? それは湊が先ほど投げた未知の速球よりも驚きだった。 この世界最高峰のベースボールゲームの決勝戦。その勝敗がかかった場面で、笑っているだと。 楽しんでいる。 この状況を、楽しめている。
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