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湊の初球。
大庭の構えよりも若干高い、真ん中高め。伊野の野球センスがそう結論着けた。
「もらった!」
伊野はホームランを確信した。
真ん中高めへの甘い速球。見逃す理由はない。
渾身のフルスイング。
同点となるホームランがレフトスタンドへ!
「あれ?」
行かなかった。
「ストライク」
完全な振り遅れ。それも、ボールの遥か下を振るという「着払い」
「まさか、振り遅れだと!」
スイングが早すぎたならば納得できる。しかし、
チラリと表示された球速を見る。
122km/h
速さを議論するには馬鹿らし過ぎる球速だ。
(こんな球速で振り遅れだぁ? 嘘だろ。スピードガン、計測ミスだろ)
伊野は混乱したままだ。
「あれじゃ打てないな。百回振っても当たらねぇよ」
井原が上機嫌に言う。
「湊の球は普通に振っても当たらない。何せ、軌道もタイミングも全く違うんだからな。一発狙いのフルスイングは確かに怖いが、当たる確率は限りなく0だ」
湊の二球目に伊野のバットが空を切る。
初球と同じ着払い。
「本当、野球ってのは面白いね。僅か120ちょっとの球でも、質によっては通用するんだからな」
「監督、そんな呑気にしてて良いんですか? 一発出たらゲームは振り出しですよ」
「その一発が出ないから安心しているの。分からないかな~、この余裕」
「畜生!」
伊野のバットが虚しく空を切った。
三球三振。
球種は全てストレート。コースも変わらずのど真ん中。
球速は120を若干上回る程度。
「勝ったね」
「そうなんですか」
「相手ベンチを見れば解るさ。遅い球を長く見すぎだとか言ってるよ、あれは」
アドバイスが的外れでは打てない。
絶対にだ。
もっとも、アドバイスが当たっていたとしても、初見で易々と打てる代物ではない。
続く四番、五番も空振り三振。
東北フェニックス開幕戦は5対4でフェニックスの勝利。
そして、
「湊一成、セーブ王、そして、新しい野球の誕生の最初の一歩。ってか」
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