第三章「開幕戦・鮮烈デビュー?」

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湊の初球。 大庭の構えよりも若干高い、真ん中高め。伊野の野球センスがそう結論着けた。 「もらった!」 伊野はホームランを確信した。 真ん中高めへの甘い速球。見逃す理由はない。 渾身のフルスイング。 同点となるホームランがレフトスタンドへ! 「あれ?」 行かなかった。 「ストライク」 完全な振り遅れ。それも、ボールの遥か下を振るという「着払い」 「まさか、振り遅れだと!」 スイングが早すぎたならば納得できる。しかし、 チラリと表示された球速を見る。 122km/h 速さを議論するには馬鹿らし過ぎる球速だ。 (こんな球速で振り遅れだぁ? 嘘だろ。スピードガン、計測ミスだろ) 伊野は混乱したままだ。 「あれじゃ打てないな。百回振っても当たらねぇよ」 井原が上機嫌に言う。 「湊の球は普通に振っても当たらない。何せ、軌道もタイミングも全く違うんだからな。一発狙いのフルスイングは確かに怖いが、当たる確率は限りなく0だ」 湊の二球目に伊野のバットが空を切る。 初球と同じ着払い。 「本当、野球ってのは面白いね。僅か120ちょっとの球でも、質によっては通用するんだからな」 「監督、そんな呑気にしてて良いんですか? 一発出たらゲームは振り出しですよ」 「その一発が出ないから安心しているの。分からないかな~、この余裕」 「畜生!」 伊野のバットが虚しく空を切った。 三球三振。 球種は全てストレート。コースも変わらずのど真ん中。 球速は120を若干上回る程度。 「勝ったね」 「そうなんですか」 「相手ベンチを見れば解るさ。遅い球を長く見すぎだとか言ってるよ、あれは」 アドバイスが的外れでは打てない。 絶対にだ。 もっとも、アドバイスが当たっていたとしても、初見で易々と打てる代物ではない。 続く四番、五番も空振り三振。 東北フェニックス開幕戦は5対4でフェニックスの勝利。 そして、 「湊一成、セーブ王、そして、新しい野球の誕生の最初の一歩。ってか」  
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