第三章「開幕戦・鮮烈デビュー?」

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「セオリーって、常識って何だろうな」 大好きだった父。 休日のキャッチボールの後、父はいつもそんなことを呟いていた。 「投手なら高めの変化球はホームランボールだから、低く投げろ。打者なら、無死一塁は送りバント。確かに間違いじゃないけど、絶対の正解でもない」 当時小学生だった自分に、その言葉に込められた意味を、理解することは不可能だった。 ただ、聞いていただけ。それでも父は話を続けた。 「選手には個性がある。スラッガーに犠打ばかりでは意味無いし、鈍足に盗塁ばかりも無意味。投手だって、同じ変化球でも、球速、変化量、軌道、キレ。一つとして同じ球は無い。なのに全てセオリーに無理矢理当てはめて正しいのだろうか」 かつて、甲子園で優勝し、プロ入り。新人王確実と言われ、連投を強いられ、肩を壊した父。 酷い扱いを受けた。 契約金泥棒。 勝手に自滅。 プロの資格無し。 球界の恥。 でも、そんな父が大好きだった。 自分が、中学校に入学して間もなく、 父は交通事故で死んだ。 そして、自分も同じプロの道を歩んでいる。 でも、大好きだった父が伝えたかったことは、まだ理解出来ていない。 そんな思考とともに、新城は遠征先のホテルで眠りについた。 明日以降も、試合はある。 父に初勝利をプレゼントしたい。 そして、父を越えたい。
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