第三章「開幕戦・鮮烈デビュー?」

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無死満塁。 しかも、回はまだ三回で、打者は一番から。得点は5対2の3点ビハインド。 スクイズ、犠牲フライ、強打、押し出し。 攻撃側からすると、好きな戦術を選べる。 加えて、投手新城は、昨日の試合でスリーランを打たれた打者。 ベテランであろうとも、何点か覚悟しなければならない状況。 「監督、昨日の今日で新城は、厳しいです。決定打を打たれるだけではなく、新城本人も潰されてしまいます」 「あいつもその位理解しているよ」 井原はマウンド上で投球練習を行う新城を、リラックスした表情で見つめている。 「和田ちゃん。あれが、ピンチを迎えて緊張している姿に見えるかい?」 「落ち着いているように見えます」 「投手に必要なのは、強敵を前にしても怯まない精神力。そして、開き直りだよ」 内野は前進守備のバックホーム狙い。 外野も前進してきている。外野の頭を越えれば走者一掃のタイムリーもあり得る。 念入りなサイン交換。 マスクを被る伊吹が野手に細かな守備位置を指示する。 セットポジションからの初球。内角高めへのストレート。 見逃して、 「ストライク」 球速は155km/h。 これに動揺しているのは打者だ。 昨日の球とは迫力がまるで違う。 二球目。 同じコースへのストレート。 今度は振るが完全に振り遅れ。 新城からは、無死満塁のピンチを背負っている緊張がない。 球も、「打てるなら、打ってみろ」と自信をもって投げ込んでいる。 その様子は、 「楽しんでいる・・・」 三球目は一変してど真ん中。 これを打とうとバットを振るがボールが鋭く落ちる。 スライダーだ。 空振り三振。 これで1アウト。 続く打者は初球からスクイズ。しかし、打球はキャッチャーの守備範囲にフラフラとフライが上がる。 慌ててランナーは戻るが、伊吹はこれをワンバウンドで捕る。 「何!?」 バントの場合、インフィールドフライは無い。ホームベースを踏んでサードへ送球。 併殺が成立し、スリーアウト。 無死満塁のピンチを、たった四球で抑えた。 「新城も凄いが、伊吹もナイス判断だな」 「え、えぇ」 ベンチにナインが戻ってくる。 「新城、伊吹。ナイスプレイ」 「はい」 「この試合、流れが来たぜ。新城、続投だ。ロングリリーフ行くからな」 「はい、大丈夫です」
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