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無死満塁。
しかも、回はまだ三回で、打者は一番から。得点は5対2の3点ビハインド。
スクイズ、犠牲フライ、強打、押し出し。
攻撃側からすると、好きな戦術を選べる。
加えて、投手新城は、昨日の試合でスリーランを打たれた打者。
ベテランであろうとも、何点か覚悟しなければならない状況。
「監督、昨日の今日で新城は、厳しいです。決定打を打たれるだけではなく、新城本人も潰されてしまいます」
「あいつもその位理解しているよ」
井原はマウンド上で投球練習を行う新城を、リラックスした表情で見つめている。
「和田ちゃん。あれが、ピンチを迎えて緊張している姿に見えるかい?」
「落ち着いているように見えます」
「投手に必要なのは、強敵を前にしても怯まない精神力。そして、開き直りだよ」
内野は前進守備のバックホーム狙い。
外野も前進してきている。外野の頭を越えれば走者一掃のタイムリーもあり得る。
念入りなサイン交換。
マスクを被る伊吹が野手に細かな守備位置を指示する。
セットポジションからの初球。内角高めへのストレート。
見逃して、
「ストライク」
球速は155km/h。
これに動揺しているのは打者だ。
昨日の球とは迫力がまるで違う。
二球目。
同じコースへのストレート。
今度は振るが完全に振り遅れ。
新城からは、無死満塁のピンチを背負っている緊張がない。
球も、「打てるなら、打ってみろ」と自信をもって投げ込んでいる。
その様子は、
「楽しんでいる・・・」
三球目は一変してど真ん中。
これを打とうとバットを振るがボールが鋭く落ちる。
スライダーだ。
空振り三振。
これで1アウト。
続く打者は初球からスクイズ。しかし、打球はキャッチャーの守備範囲にフラフラとフライが上がる。
慌ててランナーは戻るが、伊吹はこれをワンバウンドで捕る。
「何!?」
バントの場合、インフィールドフライは無い。ホームベースを踏んでサードへ送球。
併殺が成立し、スリーアウト。
無死満塁のピンチを、たった四球で抑えた。
「新城も凄いが、伊吹もナイス判断だな」
「え、えぇ」
ベンチにナインが戻ってくる。
「新城、伊吹。ナイスプレイ」
「はい」
「この試合、流れが来たぜ。新城、続投だ。ロングリリーフ行くからな」
「はい、大丈夫です」
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