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井原訪問から1週間が過ぎていた。
「井原さん、来ないね」
「そうだね」
放課後の図書室。
佳奈と湊は受験勉強に勤しんでいた。
しかし、勉強に集中しているかと言えば、そうではない。
特に佳奈は、井原のことが気になっていた。
「佳奈ちゃん、集中して勉強しないと駄目だよ」
「だって、気になるんだもん」
即答する。
「僕だって気になるけど、佳奈ちゃんが気にすることかな? 僕の問題だし」
当事者以上に第三者が気にしている。
「・・・ねぇ、佳奈ちゃん」
「何?」
「プロ野球選手の仕事って、ただ野球が上手くなって、試合に勝つことかな?」
「え? えっと、そうじゃないの?」
珍しく湊は真剣な表情だ。
「なんかさ、それだけじゃないような気がするんだよね」
「そうかな? 試合に出て勝つこと以外に、プロに仕事ってあるかな?」
「僕ってさ、勝ち負けにこだわらないでしょ? だから、試合に勝つことが仕事なら、プロには絶対に向いていないと思ってさ」
「そう言われたら、そうかもね。いっくんは、頑張り屋だけど、結果は気にしないから」
納得できるような、できないような。
この時、湊は複雑な気持ちを抱えていた。
そして、そんな気持ちを知ってか知らずか、その晩に井原が湊家にやってきた。
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