第四章「始まりの出会い」

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「この世にはいないって・・・」 「よくある話だよ。余命幾ばくもない病人が、プロ選手のプレイする姿に勇気付けられるって、美談。ただ、俺の場合は滑稽だけどね」 自虐的に言う。 「俺って、捕手で10年、投手で10年って異例のプロ生活だったんだよ。捕手10年目の開幕戦。クロスプレーで右手を複雑骨折。そのシーズンは手術とリハビリで終わっちまったよ」 しかし、井原の右手は打者としての役割を果たせなくなっていた。 元々反復練習の繰り返し以上に、センスでバットを振っていた井原だ。半年間で格段に衰えた右手では、彼のスタイルに応えられなかった。 そして、スランプ。 打者としての選手生命に限界を感じた井原は、異例の投手へのコンバートを決意し、成功する。 そして、手紙をもらったのは投手転向3年目のシーズン前だった。 差出人は波多野桜子。19歳。 高校1年の5月に病に倒れ、それ以来ずっと入退院を繰り返しているという。 野球好きで、高校では野球部のマネージャーをしようと思った矢先の病気だった。 失意のどん底に落ちかけていた彼女を救ったのが、井原のコンバート話だった。
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