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投手から野手転向はよくある話だが、その逆は極端に少なく、大成した例も限りなく0に近い。
野球を知っているからこそ分かる。それがどれだけ無謀なのかを。
気付くと、ベッドの上で井原の試合を見ていた。
聞くと、井原はコンバートを決めた年に奥さんを病気で亡くしていたらしい。
妻の死を必死に忘れようと無茶な挑戦をしているのだと。
気付いた時、桜子は手紙を書いていた。
有名選手には何通も送られてくるファンレターの一つ。
読んでくれないかもしれない。
そんな諦め半分で書いた手紙。
まさか返事が来るとは思っていなかった。
返事にはこう書いてあった。
『忘れる為に挑戦したのではなく、忘れない為の挑戦。生前、「マスクばかり被って、折角の顔が見えない。もっと顔が見えるように野球をして欲しかった」と冗談混じりに言われたのがきっかけ』
と。
つまり、奥さんの冗談を本当にやってしまったという事だ。
可笑しな人だ。
大怪我も、愛する人との死別も、困難さえも彼はあっさりと克服している。
手紙の最後にはこう書かれていた。
『俺は頑張れとは言わない。もう何年も病気と戦い続けている君に頑張れとは言わない。君は君のベストを尽くせ』
この言葉は、この数年間で一番突き放したエールだ。
一番突き放したエールなのに、一番心に響いた。
そして二人の文通が始まった。
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