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文通が始まったのとほぼ同じ頃、ペナントレースが始まった。
井原は初の開幕投手を任される。
そして、自身初のサヨナラホームランを打たれる。
テレビ等では淡々としていたが、手紙では逆だった。
『初のサヨナラホームランが開幕戦なんて投手、俺以外きっといないよね? 歴史に名が残ったよ。監督が、「振りでいいから悔しそうにしていろ」って言っているので淡々としているけど、本心はウキウキしてるよ』
井原らしいと桜子は思った。
そんな陽気な内容の文通が続き、オフの日に病室を訪れたりもした。
桜子は日本人形を思わせる色白で、かなり、細身だった。
そして、シーズンも終盤になった頃、桜子が10月1日に二十歳になる事。その前日に臓器移植の手術を受けることを告白される。
手術の日は井原の登板予定日。
大人になる御祝いに、ウイニングボールをプレゼントすると約束した。
手術開始は14時。
試合開始は18時。
試合が終わる頃には手術も終わっているはず。
明日はオフだから試合が終わったら病院にボールを届けよう。
そう気楽に考えていた。
そして試合開始。
井原は投手転向してから、初めて本気で勝ちを意識して投げていた。
今日だけは絶対に負けられない。
0行進を続ける井原だが、こちらも0行進。相手の先発は最多勝争いでトップタイ。負けられない気持ちは向こうも同じだ。
試合は消化試合とは思えない投手戦となり、11回までお互い0点。
試合は12回を投げ抜き、引き分けとなった。
ウイニングボールをプレゼントとはならなかったが、引き分け記念ボールも中々手に入る代物ではない。
予定よりもやや遅れて病院を訪れた井原が見たのは、
白い布を顔にかけられ、冷たくなった桜子の姿だった。
『ベストを尽くせ』
そう書かれたサインボールが、力の抜けた井原の手から落ちた。
ボールの転がる音を、初めてはっきりと聞いた。
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