第五章「不死鳥リレー・春の巻」

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批判の的から一躍スター扱い。 マスコミの、都合の良い態度に呆れながらも、湊は故障もなく順調だ。 振っても当たらない不思議な球を投げる湊。 当初、違反投球をしているのでは、と的外れな疑いもかけられたが、疑いは一瞬で否定された。 対戦した打者が口を揃えて「そんな事はない。真剣勝負に余計な詮索をするな」とメディア、自称評論家の不正・八百長疑惑を痛烈に批判した。 湊の球は魔球と称され、注目を集めていた。 そんなある日、湊に連絡してきた人物がいた。 「いっくん、久しぶり。どう? 頑張ってる?」 「うん、頑張ってるよ。佳奈ちゃんこそ、ちゃんと大学行ってるの?」 「勿論よ。夏になったら、実習が入るわ」 背の高い女性、幼なじみにして同級生の佳奈は楽しげに言う。 そして、軽めの夕食の後、バーに行く。 「でも、本当にいっくんが活躍する日が来るなんて驚き。ずっと期待していたけど、いきなりなんだもん」 「僕も驚いているよ。物凄い応援で、マウンドに上がるのが毎試合楽しみだよ」 変わっていない。 高校を卒業し、お互い違う道を歩んだが、湊は変わっていない。 「でも、突然だね。佳奈ちゃんから連絡くれるなんて」 湊の何気ない一言に一瞬固まる。 「・・・実は、どうしても教えて置かないといけない事があるの」 急に真剣な口調になる。 「何?」 湊は呑気なまま。 「あの子が、帰ってくるらしいの」 「あの子?」 「忘れちゃったの? 一つ年下で、中学卒業してすぐに転校しちゃった――」 「まさか、郁乃ちゃん? 御堂郁乃ちゃん?」 「そうよ・・・」 湊も黙ってしまう。 御堂郁乃。 世界規模で事業を展開している御堂グループのお嬢様。 その我の強さと行動力から、御堂の女王と言われた幼なじみだ。
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