第五章「不死鳥リレー・春の巻」

4/18
前へ
/1838ページ
次へ
佳奈から郁乃の話を聞いた二日後。 東北フェニックスは、北海道ナイツと3連戦の初戦を迎えていた。 回は既に九回表を終え、裏の攻撃を迎えていた。 得点は4対2でフェニックスの2点リード。 マウンドには湊が上がる。 先発が六、七回まで投げると、新城、林原、湊と確立した勝利の方程式で逃げ切る。 フェニックスの必勝パターンだ。 打者はバットを短く持っていた。 普通に振っても当たらないならば、せめて短く持って当てようという策だ。 確かに打ちにくい球に対応する手段ではベストだが、湊の球には通用しない。 小柄な身体全てを使ったダイナミックなフォーム。 そこから放たれる球は、通常の球の概念から大きく外れていた。 バットにかする事もなく虚しく空を切る。 登板8試合目。 これまで対戦した打者全員が遅いはずの球に振り遅れ、コースを見失い、本来の打撃をさせてもらえていない。 ファールすらない。 この試合もこれまで通りの投球を披露し、8セーブ目。 加えて、24者連続三振のとんでもない記録を更新していた。 そんな、とんでもない記録を更新していながらも湊は、淡々と普段通りだった。 試合を終え、宿舎のホテルでまったりしていると、突然携帯が鳴った。 表示された番号は登録されていない番号。 やや不信に思いながらも電話に出る。 「はい、もしもし」 『あ、一成さん? お久しぶりです』 「?」 『驚きました。まさか、プロ野球選手になっていたとは予想していませんでした』 若い女性の声だが知らない人の声だ。 「あの~、どちら様で――」 そこまで言って閃くものがあった。 冷や汗が、急に、滝のように流れてきた。
/1838ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22653人が本棚に入れています
本棚に追加