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「GMって、まだガキじゃないかよ。なぁ、湊」
新城が呆れた様子で言う。
「僕の、幼なじみです。一つ年下ですが、アメリカで、高校と大学を飛び級で卒業してます」
絞り出すように呟く。
悲壮感すら漂わせて。
と、球場スタッフが足早にやってくる。
「湊選手、始球式のバッターをお願いします」
「え?」
一瞬、何を言われたか理解出来なかった。
「御堂GMのご希望で、始球式は湊選手と、真剣勝負でお願いしたいとの事です」
成る程。
分かったよ。
僕には、逃げ道は残されていないんだね。
湊は悟った。
そして、全力で駆けた。
郁乃が待っている。
幼い頃に、身体の隅々に染み付いたトラウマが、郁乃を待たせては、機嫌を損ねてはいけないと激しく警鐘を鳴らしている。
肩で息をしながらも、湊は左バッターボックスに入っていた。
その速度は、普段のマイペースぶりからは想像出来ないほど速く、早い。
「少し待ちましたわ」
「ゴメンね、いきなりで焦っちゃったよ」
「まぁ、良いです。いきなり無茶な要求をしたのはこちらですから」
そう言うと、ロージンで滑り止めをし、鋭い目付きを更に鋭くして湊を睨む。
「真剣勝負、行きます」
本気だ。
こうなったらこっちも全力でするしかない。
手を抜こうものなら、どんな目に合うか。
そして、郁乃は大きく振りかぶった。
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